ブラック企業に勤めていた男性がついに転職する事を決意し、転職先の内定をもらったのに、結局罪悪感から内定を断ってしまった話です。この男性の職場は人数が足りておらず、一人が担当する仕事が多すぎました。残業を毎日のようにしても一向に仕事は片付きません。このような状況が何年も続いた時に、このままでは心身ともに疲弊してダメになってしまうと判断し、転職活動を始めました。転職エージェントもその男性の境遇に同情し、一生懸命男性の転職先を探しました。
そしてしばらくして、今の会社よりも待遇面もよく、ゆっくりとした環境で仕事ができる転職先をみつける事ができました。男性は仕事ができ、人間性もしっかりしていたので、面接に無事合格し内定をもらいました。
こうなれば会社や同僚に説明をして、会社を辞めて転職をするだけです。しかし転職エージェントがこの男性に転職の準備のための電話をかけると、男性は意外な事に内定を断ると言ってきたのです。転職エージェントの担当者はこの男性と初めてあって打ち合わせをした時の事を思い出していました。いかに今の会社の労働環境が過酷で、精神的にも体的にも限界に近いところまで来ていると切々と語っていた姿です。そして本気で転職をしたいという熱意を感じたからこそ、担当者もここまで二人三脚で頑張ってきたのです。
しかし男性はエージェントの担当者に謝るばかりで、転職を止める理由をなかなか言いませんでした。もしかしたら会社の上司から引止めがあったのかと聞くと、男性は確かに引止めはありましたが、それが理由ではありませんと答えました。
実はこの男性が転職をやめた理由は同僚への罪悪感が原因でした。しかし同僚がこの男性に文句を言ったり、引き止めたりしたのではありません。同僚たちはこの男性の転職を自分の事のように喜んでくれたのです。この過酷な職場から脱出して、きちんとした環境で働ける事を祝福し、逆に背中を押してくれる同僚もいたそうです。
しかし男性はこの優しい同僚たちに対して罪悪感を抱いてしまう事になるのです。自分が辞めたらただでさえ過酷な労働環境なのに、自分が抜けた穴を同僚たちが埋める事になってしまう。そうなればさらに厳しい職務を同僚たちに強いる事になってしまう…男性はこのように考え悩んだ末、会社を辞める事を諦めました。本来職場の環境を改善し、社員の負担を減らすのは会社側の役目であるはずです。ひどい環境の会社だからこそ転職を諦めるという、矛盾した結果になってしまったのは非常に残念な事です。
今の会社よりもっと待遇の良い会社から転職の内定をもらっているのにもかかわらず、元の会社の同僚達への罪悪感から転職を取りやめてしまう人がいます。しかしビジネスマンである以上キャリアアップを目指すのは当然で、その事は同僚達も理解しているはずです。またもしも会社の業績が悪くなり、会社があなたを解雇したとしても、会社はあなたに対して罪悪感を感じる事はありません。解雇する側に罪悪感がない以上、転職する側にも罪悪感は必要ないのではないでしょうか。